「腸は第二の脳」と言われるのはなぜ?腸と脳のつながり(腸脳相関)で分かっていること・まだ分かっていないこと

朝の光が差し込む窓辺で、お茶のカップを両手で包み、穏やかに外を眺める女性。テーブルにはブルーベリーをのせたヨーグルトの小鉢。腸と脳のつながりをテーマにした記事のアイキャッチ

大事な会議の前にお腹が痛くなる。旅行に出ると便通のリズムが変わる。そんな経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。

こうした「気持ち」と「お腹」のつながりを説明するときに、よく出てくるのが「腸は第二の脳」という言葉です。ただ、この言葉だけが独り歩きして、「腸が考えている」「腸でつくられるセロトニンで幸せになれる」といった話まで広がっているように感じます。

この記事で分かることは、次の3つです。

  • 「腸は第二の脳」という言葉が、何を指して生まれたのか
  • 腸と脳が、どんな道を通って情報をやり取りしているのか(腸脳相関)
  • 研究で分かっていることと、まだ分かっていないことの線引き

研究論文や、大学・研究機関の発表に書かれていることをもとにお話しします。

「第二の脳」とは、腸に「自分専用の神経ネットワーク」があるということ

「第二の脳」という言葉は、アメリカ・コロンビア大学の神経科学者マイケル・ガーション氏が1998年に出した本『The Second Brain(第二の脳)』で広まりました。

ガーション氏が「第二の脳」と呼んだのは、腸の壁の中に張りめぐらされた神経のネットワークです。専門的には「腸管神経系(ちょうかんしんけいけい)」と言います。

腸の壁の中には自分専用の神経ネットワーク(腸管神経系)があり、1億個前後から数億個とされる神経細胞が脳の指令なしで腸の動きを調整している。ただし考えたり決めたりする場所ではない、という3点を整理した図

腸には、1億個以上の神経細胞がある

腸管神経系には、1億個以上の神経細胞があるとされています。ガーション氏はこの数を「脊髄(せきずい。背骨の中を通る神経の束)より多い」と説明しています(Scientific American 誌の記事、2010年)。文献によっては「1億〜6億個」と幅をもって書かれることもあります(スタンフォード大学 Wu Tsai 神経科学研究所の記事、2023年)。正確な数は研究によって違い、まだ定まっていません。

数の多さだけでも驚きですが、大事なのは次の点です。

脳からの指令がなくても、腸は自分で消化を進められる

腸管神経系は、脳の指令を待たずに、食べ物を送る動き(ぜん動)など、腸の動きを自分で調整できます。たとえるなら、本社(脳)の指示がなくても、現場(腸)の判断で日々の仕事を回せる「支店」のようなものです。

スタンフォード大学の神経科学者は、マウスの腸を体から取り出して培養液の中に置いても、腸は動き続けると説明しています。脳につながっていなくても、腸の神経ネットワークが自分で動きをつくれるからです。

ただし、「考える」「決める」場所ではない

ここは誤解されやすいところです。「第二の脳」と言っても、腸が何かを考えたり、意思決定をしたりするわけではありません。Scientific American 誌の記事も、腸管神経系は意識的な思考や意思決定をする場所ではない、と明記しています。

つまり「第二の脳」は、「もう1つの頭脳」という意味ではなく、「脳に頼らず自分で仕事をこなせる、独立した神経のしくみ」という意味でとらえると、ちょうどよいと思います。

腸と脳は、いくつもの道で「双方向」につながっている

腸に独自の神経ネットワークがあることと、腸と脳がやりとりをしていることは、別の話です。腸と脳の間で情報が行き来し、お互いに影響し合うことを「腸脳相関(ちょうのうそうかん)」または「脳腸相関」と呼びます。

腸と脳は、神経(迷走神経など)・ホルモン・免疫・腸内細菌がつくる物質という4つの道で、双方向に情報をやり取りしていることを示した図

脳から腸へ:自律神経とホルモン

東北大学で心療内科を専門とする福土審(ふくど しん)教授は、脳が自律神経(体の働きを自動で調整する神経。交感神経・副交感神経)、腸管神経系、ホルモンなどを通じて腸に影響を与えていると説明しています(nippon.com の取材記事、2022年)。

緊張すると心臓がどきどきするのと同じように、脳が受け取ったストレスは、自律神経を通じて腸にも伝わります。

腸から脳へ:迷走神経

脳と腸を直接つなぐ神経に「迷走神経(めいそうしんけい)」があります。福土教授によると、迷走神経の信号の大部分は、脳から腸へではなく、腸から脳へ向かっています。腸は、脳に向かって常に「いまこんな状態です」と報告を上げている、と言えます。

免疫と、腸内細菌がつくる物質

腸と脳の研究をまとめた論文(総説)があります。アイルランドの研究グループ(クライアン氏ら)が2019年に『Physiological Reviews』誌に発表したもので、ここでは腸内細菌と脳をつなぐ経路として、迷走神経や腸管神経系のほかに、免疫のしくみや、腸内細菌がつくる物質(短鎖脂肪酸など)が挙げられています。

短鎖脂肪酸とは、腸内細菌がつくる酢酸や酪酸などの成分のことです。こうした物質が脳とどう関わるかは、いま研究が進められています。

まとめると、腸と脳は「神経」「ホルモン」「免疫」「腸内細菌がつくる物質」という複数の道でつながっていて、しかも一方通行ではなく双方向、というように整理できます(この4つの分け方は、本記事での整理です)。

緊張するとお腹が痛くなるのは、腸脳相関の身近な例

腸脳相関の身近な例が、「緊張するとお腹が痛くなる」「ストレスで便秘や下痢をくり返す」という経験です。

福土教授の説明では、検査をしても腸そのものに異常が見つからないのに、腹痛や便通の乱れが続く状態を「過敏性腸症候群(IBS)」と言います。ストレスが引き金になることがあり、脳と腸の関係の乱れが関わると考えられています。ただし、原因はひとつとは限りません。

企業の研究所であるヤクルト中央研究所の健康コラムでは、IBS について、脳の不安やストレスの信号が腸に伝わって腸が過剰に反応し、その刺激がまた脳に戻って苦痛が増す、という「悪循環」が起きると説明されています。腸→脳、脳→腸の両方向があるからこそ、悪循環にもなりうる、ということです。

お腹の痛みや便通の乱れが続くときは、自分で「ストレスのせい」と決めつけず、医療機関で相談してください。 腸脳相関は、あくまで「腸の病気がない」ことを確かめたうえでの話です。

「セロトニンの9割は腸でつくられる」は本当。ただし、脳のセロトニンとは別に考えられている

「幸せホルモン」と呼ばれることもあるセロトニンについて、「体のセロトニンの9割は腸でつくられる」という話を聞いたことがあるかもしれません。これ自体は、研究論文にも書かれている事実です。

カリフォルニア工科大学の研究グループが2015年に『Cell』誌に発表した論文の冒頭には、「体内のセロトニンの90%以上は腸で合成される」と書かれています。

腸のセロトニンが、そのまま脳に届くわけではない

ただし、ここで止まると誤解が生まれます。腸でつくられたセロトニンが、そのまま脳に届いて気分を決めるわけではないと説明されています。脳には「血液脳関門(けつえきのうかんもん)」という関所のようなしくみがあり、血液中の物質を選んで通しています。セロトニンはこの関所を通れないとされています(トルコの消化器病学会誌の論説、2020年)。

同じ論説では、体のセロトニンには「脳でつくられるもの」と「腸などでつくられるもの」の2つの別々の系統がある、と説明されています。

ですから、「腸でセロトニンをたくさんつくれば幸せになれる」という話は、研究で確かめられた内容を超えています。腸と脳のつながりは、セロトニンが直接運ばれることではなく、前の節で紹介した「神経・ホルモン・免疫・腸内細菌の物質」などの道を通して研究されている、と考えられています。

腸内細菌が、腸のセロトニンづくりに関わっているという研究

先ほどの2015年の論文では、マウスを使った実験で、腸にすむ一部の細菌が、腸の細胞でセロトニンがつくられるのを促していることが報告されています。腸内細菌のいないマウス(無菌マウス)では、腸のセロトニンが少なかったそうです。

これは「腸内細菌が、腸の働きに関わる物質づくりに参加している」ことを示した研究です。人の気分や心の状態について調べたものではない、という点は押さえておいてください。

腸内細菌と脳の関係で、研究が示していること

腸内細菌と脳の関係は、近年、研究が進んでいる分野です。研究の例を3つ紹介します。1つ目と2つ目はマウスを使った研究、3つ目は研究全体をまとめた論文です。

腸内細菌のいないマウスは、ストレスへの反応が強かった(2004年)

日本の研究グループ(須藤信行氏ら)は、腸内細菌をもたない「無菌マウス」と、ふつうの腸内細菌をもつマウスを比べました。無菌マウスは、体を拘束するストレスを受けたときに、ストレスホルモン(ACTH、コルチコステロン)の出方が強くなっていました。そして、ビフィズス菌の一種を無菌マウスに定着させると、この強すぎる反応がおさまった、と報告されています(『The Journal of Physiology』誌、2004年)。

この研究は、「生まれたあとに腸内細菌がすみつくことが、ストレスに反応するしくみの発達に関わっている」ことを示したものです。

腸の情報が肝臓・脳を経由して、腸の免疫を調整していた(慶應義塾大学ほか、2020年)

慶應義塾大学医学部の金井隆典教授らのグループは、腸内細菌の情報が肝臓を経て脳に伝わるしくみを、マウスで明らかにしました。脳に伝わった情報は、迷走神経の反射によって、腸の炎症をおさえる免疫細胞(制御性T細胞)の量の調整に使われていました(『Nature』誌、2020年)。肝臓から脳に向かう迷走神経を切ると、この免疫細胞が減り、腸炎のマウスの状態が悪くなったそうです。

「腸→肝臓→脳→腸」という遠回りの経路で、腸内細菌・神経・免疫がつながっていることを示した研究です。

腸内細菌と脳をつなぐ経路は、複数あると整理されている(総説、2019年)

先ほど紹介したクライアン氏らの総説では、腸内細菌と脳は、免疫、トリプトファン(セロトニンの材料になるアミノ酸)の代謝、迷走神経、腸管神経系、そして短鎖脂肪酸などの細菌がつくる物質を通じて情報をやり取りしている、と整理されています。あわせて、こうした知見の多くは動物実験によって得られたもので、人を対象にした研究は進行中である、とも書かれています。

まだ分かっていないこと

ここまでの研究を読むと、「腸を良くすれば心も良くなる」と言いたくなります。ですが、研究者自身がそこまで言っていないことは、はっきりさせておく必要があります。

研究で分かっていること(腸に独自の神経がある・腸と脳は双方向につながる・マウスでは腸内細菌がストレス反応に関わる)と、まだ分かっていないこと(人での因果関係・特定の食品や菌で気分が変わるか・何をどれだけとればよいか)を左右に並べた図

人での因果関係は、まだ確かめられていない

ここで紹介した研究の多くは、マウスでの結果です。マウスで起きたことが、そのまま人に当てはまるとは限りません。クライアン氏らの総説も、人を対象にした研究はこれからの課題だと述べています。

「何かを食べれば気分が変わる」とは言えない

「特定の菌や食品をとれば、気分や心の状態が良くなる」という効果は、人で確立されたものではありません。腸と脳のつながりは研究の途中にあり、何を、どれだけとればどうなるか、という答えはまだ出ていません。

この記事を読んで「腸活で心の不調が良くなる」と受け取ることは、研究の内容を超えた読み方になります。気分の落ち込みや不安が続くときは、食事を工夫する前に、まず医療機関に相談してください。

よくある疑問

Q. 「第二の脳」は、本当に考えているのですか?

いいえ。腸管神経系は、消化の動きなどを脳に頼らず進められる独立した神経のしくみですが、思考や判断をする場所ではありません。「第二の脳」は、その独立性を強調した呼び名です。

Q. 腸活をすれば、気分が良くなりますか?

研究の段階です。マウスの実験では腸内細菌とストレス反応の関係が報告されていますが、人で「これを食べれば気分が良くなる」と確かめられたものはありません。腸活は、お腹の調子に関心をもって食生活を見直すきっかけとして考えるのがよいと思います。

Q. 緊張するとお腹が痛くなります。どうすればいいですか?

緊張したときの一時的なお腹の痛みは、脳と腸が影響し合う腸脳相関の身近な例と考えられています。ただ、痛みや便通の乱れが続く、生活に支障が出る、という場合は、腸の病気がかくれていないかを確かめる必要があります。自己判断せず、医療機関で相談してください。

まとめ

この記事の要点は、次の3つです。

  • 「腸は第二の脳」とは、腸の壁の中に1億個前後から数億個とされる神経細胞からなる独自のネットワーク(腸管神経系)があり、脳の指令なしで腸の動きを調整できることを指す言葉。考えたり決めたりする場所ではありません
  • 腸と脳は、神経(迷走神経など)・ホルモン・免疫・腸内細菌がつくる物質という複数の道で、双方向につながっています。「緊張するとお腹が痛くなる」はその身近な例です
  • 腸内細菌とストレス反応の関係などがマウスの研究で報告されていますが、人での因果関係や、「何を食べれば気分が変わるか」はまだ分かっていません

今日からできることは、お腹の調子が気になった日に、その日の気持ちや出来事をひとこと書き留めてみることです。自分の「気持ち」と「お腹」のつながりが、少し見えてくるかもしれません。

朝の食卓で、お茶とヨーグルトを横に置き、小さなノートに鉛筆でひとこと書き留める女性の手元

関連する記事も、あわせてご覧ください。

毎日の腸活に、ケストースを取り入れてみませんか

ここまでの内容は、腸と脳のつながりについての研究の紹介です。ケストースの働きを示すものではありません。

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参考にした情報

  • Gershon MD. "The Second Brain." HarperCollins (1998)
  • Scientific American「Think Twice: How the Gut's "Second Brain" Influences Mood and Well-Being」(2010年。マイケル・ガーション氏への取材)https://www.scientificamerican.com/article/gut-second-brain/
  • スタンフォード大学 Wu Tsai 神経科学研究所「Your gut - the second brain?」(2023年)https://neuroscience.stanford.edu/node/1702
  • nippon.com「考える『腸』と『脳』:その不思議なメカニズム」(2022年。東北大学・福土審教授への取材)https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c08004/
  • ヤクルト中央研究所 ヤクルト健康コラム「脳腸相関③」https://institute.yakult.co.jp/feature/008/02.php
  • Cryan JF, et al. "The Microbiota-Gut-Brain Axis." Physiological Reviews 99(4):1877–2013 (2019) https://doi.org/10.1152/physrev.00018.2018
  • Yano JM, et al. "Indigenous Bacteria from the Gut Microbiota Regulate Host Serotonin Biosynthesis." Cell 161(2):264–276 (2015) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4393509/
  • Bektaş A, et al. "Does Serotonin in the intestines make you happy?" Turkish Journal of Gastroenterology 31(10):721–723 (2020) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7659911/
  • Sudo N, et al. "Postnatal microbial colonization programs the hypothalamic–pituitary–adrenal system for stress response in mice." The Journal of Physiology 558(1):263–275 (2004) https://doi.org/10.1113/jphysiol.2004.063388
  • 慶應義塾大学 プレスリリース「腸内細菌の情報を肝臓で統合し脳へ伝え、迷走神経反射により腸管制御性T細胞の産生を調整する仕組みを解明」(2020年6月12日)https://www.keio.ac.jp/ja/press-release/20200612-3/

この記事は、食生活に関する一般的な情報をお伝えするものです。病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。体調に不安がある方、持病のある方、症状が続く方は、医師にご相談ください。

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